春といえば恋

 

 大学時代、どうしようもなく好きになってしまった女の子がいて、恋を自覚したその日からぼくなりの精一杯のアピールを繰り広げていた。しかし彼女は興味の素振りも見せてはくれず、恋は完敗に終わって腐り果てていた。

 

 時は進み、大学卒業からもう一年が経とうとしている。卒業式でしばらく会えないかもね、と言っていた友達には卒業後にすぐ会ったが、別れの言葉を交わせなかった面々には全く会えずじまいのまま。

 ぼくは暇だからという理由で(他にもきっかけはあったがややこしいので省略)当時好きだった子に電話をかけてみた。

 ワンコール、ツーコール、出ない。

 10分後には「お風呂入ってました!」と「どうかなさいましたか?」の丁寧なメッセージが。でもぼくは知っている。こちらが暇だからかけてみた!久々に話そうよ!と返しても、「すみません、寝てました!」「最近忙しいので落ち着いたらまた笑」のような言葉のコンボで悠々かわされることを。恋愛を拗らせているぼくは、この手の塩対応にショックを受けつつも甘やかな幸せを感じたりする。釣れない感じが良いんだよなぁなんて。本当に思っているのかは自分でもよくわからない。

 だから、

 

ーーいいですね、久しぶりにお話したいです!

 

 というメッセージが返ってきたのを見た時は一瞬ひっくり返りそうになった。心臓の若干の高鳴りを抑えつつ、返事もせずに電話をワンコール。

 

「もしもし」

 

 を互いにこぼすと、懐かしさから自然と笑顔が生まれ、話が弾む。お互いの近況を報告したり、一緒だったサークルの話をしたり。それから恋愛の話に徐々に移っていく。

 

 ふと、彼女は言った。

 

「私は今付き合ってる人がいるんですけどーー」

 

 ぐっと重力ののしかかるようなショックを受けつつも、なんとか耐え凌ぎ、「あ、いいじゃん!」の明るい声を絞り出した。何年経っても、昔好きだった人に恋人ができるという事実はショックらしい。可愛らしい人だから、別に、全然、当たり前のことなんだけど。むしろ「今付き合ってる人で2人目の彼氏なんです」って言われたことに「え?」と困惑する。こんなにも魅力的なのに。いや、この子が断ってるだけか。

 

 一方的にショックを受けるのも何だし、ぼくは切り札を出してみた。よく成人式の後に聞くあれだ、「俺昔お前のことが好きだったんだぜ」ってやつだ。これをマイルドな言語にして彼女に投げつけると、「え?」と急に大きな声を出して困惑した。眠そうにしてたからってのもある。ぼくにとっては夢のような夜、まだ終わらせないですよ。

「先輩が私のこと……」

「そうそう、気づかなかったでしょ」

「ぜんぜん」

「だよね。俺のこともただの先輩としてしか見てなかったよね」

「はい。先輩でした」

 だよね、と笑みが溢れた。告白からの玉砕を食らわなかった安堵感もあったと思う。「あ、でも」と安堵を遮る可愛い声。「なに?」

 

「先輩のこと気になってた時期はありました」

 

 え?とおうむ返しに声が出て、布団の上なのに椅子から転げ落ちた気持ちだった。え、ぼくのこと好きだったの?え?「いつ?」「大学入って最初の頃です」あー、彼女いた時期。なるほど。「うわ〜気づいてやれなかった、ごめん」「いいんです」

 

 それから密かなアピールをしていた事実を言って、聞かされて、ああタイミングなんだな恋愛は。という結論に二人で至った。恋愛はタイミングが命。ぼくが好きだった時期に告白しても彼女は応えなかっただろうし、逆も然りだ。なんて難しい。強いて言うなら、もうその時期は彼女との関係性は地に落ちていたので、早めに別れるなどしていれば別の世界線があり得たかもしれない。言っても仕方ないのだけど。

 

 ただ、元気をもらえた。好きな人がぼくを好いてくれた時期があったという事実。自己肯定感が上がる。こんなぼくでも認めてくれる、素敵な人がいるんだなって。明日からまた絶望の1日が始まろうとしている。でも、なんとかなるんじゃないかなって思い始めている。「おやすみなさい」のやりとりだけで、もう1ヶ月はやり過ごせる。

 

 それから恋愛がしたい。